
HERO
※ワーズラヴィース後のSSとなりますので、セッションのネタバレも含みます
ただひたすら守春と音女ちゃんが音灼の昔話を赤裸々に暴露するお話です
スマホからなどではただでさえ乱文なものが余計に読みづらいかもしれないので、PCからの閲覧を推奨
「おい、音灼!てめぇ…いくら免許とった祝いだっつっても飲みつぶれるまで飲むやつがいるかよ…。」
そう嘆きながら守春は一人の男性を担ぎながら路地を歩く。
音灼と呼ばれた男性は完全に酔いつぶれてしまっており、気持ちの良さそうな表情を浮かべながら守春に体を預け、
「オレ…やったよ、約束守ったから…さ。」
と半ば寝言のように呟いている。
「ったく…おら!家に着いたぞ!今日誰か家にいるのか。」
もはや返答も返ってこないので仕方なく家のインターホンを押すと、
「はい、どちら様ですか?」
と女性の声が返ってきた、そして続けざまに
「えっ!守春さん!お久しぶりです!今開けますね。」
恐らくドアカメラでこちらを確認したのであろう、玄関の向こうからパタパタと足音が聞こえてくる。
ガチャっとドアが開け放たれドアの向こう側からは、女子大生くらいの年頃の女の子がこちらの状況をひと目で察し呆れた顔を向けてくる。
「また兄がご迷惑をお掛けしたみたいで…」
「あーいいのいいの、俺もここまで飲ませた責任もあるからさ。」
「とりあえず上がってください!ほらもーお兄ちゃん!立ってよ!」
音灼はまどろむ意識の中、二人に両脇を抱えられ家の中に連れられていく。
「ふぅ…兄は水を飲ませて寝かせてきました。守春さんもお水どうぞ。」
「ありがとう、本当音女ちゃんは出来た妹だ。そう言えば少し髪伸ばしたのかな?」
「あ、はい。知り合ったお友達の影響で…長い髪も可愛いなって思ったから。」
脳裏にとある村で出会った黒髪のポニーテールの少女の事を思い浮かべながら答える。
「よく似合ってるよ、今は大学生だっけ?どう?楽しい?」
「はい、憧れの大学だったので凄く充実してます。今は一人暮らしもしてて今日はたまたまこっちに帰ってきてたんですけど。」
「そっかー!俺の娘もさ!今は音女ちゃんと同じくらいの歳なんだけどね…っとまあこの話はいいか。」
ポリポリと頭をかき、今は離婚してしばらく会えてない娘の事を浮かべながら話を続ける。
「音女ちゃんも気が気じゃないだろ、こんな危なっかしい兄貴がいると。」
半ば冗談めいた口調で言うと、音女のほうももはや苦笑いを浮かべ、
「あはは、もう慣れちゃいました。それに今はお兄ちゃんを叱ってくれる人がいてくれるみたいなので、少し安心してます。」
「あー」
守春は自分の頭の中で音灼から聞いていたあの子の話を照らし合わせ、
「始めてバイクの免許の話とか聞いた時は、まさかこいつがそういう理由で動くようになるとは思ってなかったからさ。おじさんもそりゃもう爆笑しちゃったんだけどね。」
音女に出してもらった水のグラスを手に取りクイッと飲み干し、
「でもさ、俺なんかもよくわかるんだけど。あいつにはそういう"帰る理由"ってのが大事なんだよ。」
「"帰る理由"ですか?」
「うん、俺がまだ現場を近くで見てた時はそりゃもうあいつの火消しはなんていうか火そのものを憎むような火消しだったんだよ。それもまるで"自分がどうなってもいいからお前は許さない"みたいなね。」
「少しわかる気がします、お兄ちゃんが家に居たときも出動の無線が入るとなんだか怖い顔して家を出ていくときがありましたから。」
「そう、だからこそああいう向こう見ずの馬鹿野郎には、何があっても絶対に帰るんだっていう目標を見つけさせてやらないといけなかったんだ。」
つい癖で胸元に入れていたタバコに手を伸ばしかけるも、それを止め続ける。
「ただあの強情っぱりの馬鹿野郎はなかなか言うことを聞かなくてね、何言っても"それでも"って言って火を消しに行ってたんだよ。でもそれが全く一体全体どんな魔法を使ったのかここ最近のあいつは"約束がある"って言ってな、前より落ち着いた様子で火消しをしてるみたいなんだよ。」
「そう言われてみたら最近ちょっとだけお兄ちゃん怪我をすることが減ったような。」
「俺からも一回その子に感謝しないといけないくらいだよ。自分自身が火みたいなあいつをどうやって骨抜きにしたのかってことを聞くのも含めてね。」
そこで二人は声を揃えて笑い、
「お兄ちゃんは多分、今もずっと誰かのHEROなんだと思います。」
「あたしもお兄ちゃんもまだ小さい頃、このお家が一回火事で燃えたことがあるんです。その時恐くて家から逃げ出せなかったあたしをお兄ちゃんは助けにきてくれて。でも結局二人とも閉じ込められちゃったんです。その時壁を破って助けにきてくれたのが消防士の人でした。どうもそれ以来お兄ちゃんはすっかりそのHEROに夢中になったみたいで。」
「あーだからか。」
「え?」
「俺の先輩に当たる人で今は訳あって現場を離れてる人がいるんだけどね、その人から音灼の話を聞いてことがあってさ、あいつ消防学校で志願理由を尋ねられた時にさ。」
"正義の味方になりたいからです"
「って周りに他の志願者もいる中ででかい声でそうハッキリと応えたんだとさ。周りのやつは大笑いする中、先輩は音灼の目からあくまでも真面目に心の底からそう願ってるんだって事を感じたみたいでね。」
「あはは、お兄ちゃんらしいな。でもだからかなあたしもお兄ちゃんが心配でもあるんですけど信じていられるのは、」
「ん?」
「だってHEROはどんなに傷ついてもみんなの所に帰ってきてくれますから。」
音女は笑みを浮かべて兄の寝ている部屋を見てそう答える。
「全くあいつは幸せものだな。こりゃ今度会ったらますます説教してやらんといかんな。」
「ですね、思いっきりお願いします。」
「さてと、それじゃあおじさんも電車がなくなりそうだから今日は失礼するよ。」
「はい、あの守春さん!こんな兄ですけどこれからも宜しくお願いします。」
「ははは、本当にどこまでも出来た子だ。ああ、おじさんに任せておきなさい。」
百姫染家を後にして、先程吸えなかったタバコに再び手を伸ばし、
「俺もまだまだ頑張らねえとな」
そう呟き、グッとタバコを堪えるのだった。